小さい頃の思い出。
母が作った焼きうどんに鰹節を振りかける。
兄と私は食い入るようにそれを見る。
鰹節が焼きうどんの上でゆらゆらと揺れる。
母は毎度の如く「ほら鰹節が踊ってるよ!」と私たちに楽しそうに言って、私と兄は食卓の椅子の上で立って鰹節と一緒に踊った。
まだ3、4歳だった私は本当に鰹節が生きていて踊っているんだと思っていた。
年長くらいになればそうではないことはわかっていた。ただその時間がひたすらに好きで大切で、水蒸気に動かされているだけの鰹節を踊っているものと思い込んでいるフリをした。
4歳年上の兄はきっともっとずっと前からそんなこと知っていて、でも言わずにいたのだ。
兄も同じ気持ちだったのかもしれない。